喜茂別岳が有る無意根山塊は、観光客がたくさん集まるニセコ町、倶知安町を含む観光地、いわゆるニセコエリアと大都市圏札幌を南北に分断する山並みの一部だ。山並みは無意根山から中岳、並河岳、喜茂別岳と南に延びてゆき、札幌圏とニセコエリアや洞爺湖エリアを東西に結ぶ国道230号線と交錯する。そんな人間社会にまみれたエリアに囲まれた場所にある山だが、喜茂別岳の名前の由来は、喜茂別川、アイヌ語でキモペッ「山奥にある川の意味」もしくはキムウンぺッ「山に入る川の意味」である。
そんな無意根山塊の喜茂別岳に行ってみた。今回は国道230号線の中山峠(標高830m)から入山し、緩やかな尾根伝いに喜茂別岳まで登りそこから、喜茂別町側の林道中岳線の登山口まで降りる縦走コースを歩いた。
中山峠には商業施設の駐車場もあるが大型バスなども駐車する為、北海道開発局のトイレ付の立派な駐車場があるので、そこに停めるのが良いだろう。ニセコ側から来ると道路の左手にある。駐車場の周りにはいきなりハクサンチドリが咲いている。開発局の駐車場の上側からNNTの古い電波基地まで続く舗装された細い道を1時間程歩くことになる。ダケカンバとチシマザサの二次林が覆いかぶさる道なので案外涼しく、ハクサンチドリ、ヒメゴヨウイチゴ、エゾノヨツバムグラ、ノビネチドリ、マイズルソウ等の花もあり、極めて緩い傾斜の道は気持ち良く進むことが出来る。
入山から40分ほども歩くとトドマツやエゾマツ等が現れ始める。小一時間で高圧線が頭上に現れるが、2本目の高圧線下の作業道に右折して入り、200m程歩くとそこには高層湿原が広がっている。ぜひ立ち寄って欲しい所だ。

アカエゾマツに囲まれた開けた湿原からは、アカエゾマツの間に無意根山が時折顔を出す。足元には、コツマトリソウ、エゾカンゾウ、ヒオウギアヤメ、ホソバノキソチドリが咲き始めており、ツルコケモモ、イワイチョウの花が咲いている。8月ともなればエゾオヤマリンドウ、タチギボウシの花も見られるはずだ。踏み跡にはエゾシカの蹄の跡が残っており、エゾゼンテイカの花の無い花茎がそこここに見られた。

〈ツルコケモモの小さな花〉
この開けた素晴らしい湿原をみんなで楽しむために、作業道から外れて湿原内部には立ち入らないようにしたい。湿原は脆弱な自然で、踏み付けに弱いからだ。
湿原の寄り道を含めて1時間20分もすると森の中にNTTの古い施設が現れる。道は施設の左側に続いていく。ここからは歩きやすい山道となる。立派なダケカンバや時折アカエゾマツの混じるが、単調な道を山頂に向かって歩く。ノウゴウイチゴの花やサンカヨウの紫色の実に励まされつつ歩く。標高966mには地図上に湿原マークがあるが、登山道は湿原には立ち寄らない。山道の開削に感謝しつつ、あと数十メートルの湿原が見られないのはとても残念だ。ただし湿原に近くの登山道には、普段は湿原に咲くオオバタチツボスミレの紫色の花、シナノキンバイ、ミヤマキンポウゲの黄色の花が現れた。またベニバナイチヤクソウのかわいらしい花も気持ちを慰めてくれた。

〈オオバタチツボスミレ〉
傾斜の緩い登山道で少しづつ標高を稼いで行くと、ダケカンバの樹高は低くなり、クロウスゴ、アカモノ、ヒメスゲ、ゴゼンタチバナなど亜高山の植物も現れ始め、またノゴマの声も聞こえ始め森林限界が近いことを教えてくれる。ダケカンバが無くなってくるとチシマザサの登山道となる。すぐにチシマザサの背丈も低くなってきて、背後には札幌近郊の山並みがめえはじめる。

〈アカモノがきれいに咲いていた〉
展望が一気に開け、羊蹄山が目に飛び込んでくる。周りを見渡すと360度の大パノラマが広がっている。喜茂別岳の山頂だ。無意根山、中岳の山が眼前に迫り、その右手には札幌近郊の山が見える。岩のギザギザした山頂がカッコ良い定山渓天狗岳、山の合間に札幌の街並み、札幌岳、狭薄山、空沼岳、恵庭岳、樽前山、白老岳、ホロホロ徳舜瞥、オロフレ山、尻別岳、羊蹄山、ニセコ連峰と丸見えだ! ここで大展望を眺めつつ、お昼休みが良いだろう。

〈左から尻別岳、羊蹄山、ニセコ連峰〉

〈白老三山、ホロホロ山、徳舜瞥山、オロフレ山〉
先客の男性3名と山談議で盛り上がりつつ、風景を十分満喫してから林道中岳線登山口に向けて下山を開始する。今度は羊蹄山、ニセコ連峰方面に向かって眺めの良い尾根上を歩く。高山らしい植物も目に付く。アスヒカズラ、コケモモ、ハイマツ、マルバシモツケ、イソツツジ。 おっ! オオタカネイバラも有る。花の終わったシラネアオイも多くあり、チシマフウロは花盛り、ハイオトギリソウは咲初め。

〈オオタカネイバラ〉
花を見ながら15分も歩くと羊蹄山ビューポイントとなる。尾根上の道をだんだん標高を下げていくと見晴らし台に出る。ここから見える喜茂別岳はなかなかの迫力だ。小喜茂別岳も見える。

〈喜茂別岳〉
見晴し台を過ぎると自然度の高いダケカンバの森に入っていく。さらにぐんぐん標高を下げていくと、裏の沢登山口との分岐にでる。分岐を右に曲がり林道中岳線を目指す。ダケカンバにキハダ、アカイタヤ、ハリギリ、コシアブラや胸高直径が85cm程のミズナラの大木も混じる素晴らしい森になってくるとゴールはすぐそこ。標高720m付近で林道中岳線登山口にで出る。
今回のコースは登りの傾斜が非常にゆるく歩きやすい。また下りの道も悪くなく、初心者向きの山と言える。ゆっくりと歩いて登り3時間(湿原寄り道含む)、下り1時半。湿原の花、山の花、眺望も良いの山だった。湿原が花盛りとなる7月下旬、それから空気が澄んできて遠くまで見渡せる晩秋にも行ってみたい山だった。
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- 2015/07/12(日) 10:41:11|
- 北海道の夏山ガイド
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